株式会社東豆

『青燕』(三建だより コラム「小窓」) 2005-06-01

「韓流ブーム」が続いています。
加えて本年は国交正常化四十年を記念した「日韓友情年」でもあり、
様々な分野での交流事業が開催されているもよう。

さて、私の住むまち熱海市は韓国とは意外にも縁深い市です。
2000年9月、
当時の森喜朗総理と金大中大統領による日韓首脳会談が市内にて行われ、
市は会談を記念して両国友好を象徴する韓国庭園を開園。
「近くて遠かった国」との観光大交流に向けて環境作りが進められています。

そんな中、熱海にゆかりの深い韓国映画が封切られる予定となりました。
タイトルは「青燕(あおつばめ)」。
実在した韓国初の女性飛行士・朴敬元(パク・キョンウォン)さんの生涯を描いたストーリー。
彼女は植民地時代の祖国から日本に渡り、
飛行学校に入学して女性飛行士の免許を取得したのですが、
昭和8年に東京から祖国に向かう凱旋飛行の途中に不運にも悪天候に巻き込まれ、
熱海市内の玄岳(くろたけ)山腹に墜落しその生涯を閉じたのです。

当時、事故の発見者だった地元多賀村(現在の熱海市上多賀)の人々が、
彼女を村の火葬場で荼毘に付した後、
慰霊碑を建てて供養をしたという記録が熱海歴史年表に記載されており、
現在でも町内会の主導によって慰霊に関する行事が続けられています。

韓国は儒教の文化が根強く残っているといわれ、
目上の人を敬う精神が強いと同時に他者への親愛、
すなわち慈しみや哀れみの心(儒教語で「仁」)を大切にすると聞きます。
この映画の制作開始にあたり町内会はレセプションにも招待されており、
主催者側の感謝の気持ちが伺えます。

朴さんの凱旋飛行は日本から韓国へ向けての世論操作、
いわゆるプロパガンダだったいう説もあるのですが、
困難な環境の中で燕のように空を飛びたいという彼女の夢は純粋なものであったに違いないでしょう。
国家間の複雑な政治背景と相まってこの映画の日本公開は未定なのですが、
夢叶わず逝ってしまった彼女へ供養を続けた人々の「仁」、
それに応える祖国側の謝意こそが交流の本質であるといったら大げさでしょうか。