株式会社東豆

『今は昔』(三建だより コラム「小窓」) 2022-07-01

「核弾頭2発を搭載したNATO空軍の爆撃機が訓練中に消息を絶ち、米英両政府に対し、テロ・復讐・搾取を専門とする巨大組織から、空軍の爆撃機を奪ったことを宣言したメッセージが送られてきた」

1965年公開のスパイ・アクション映画『007/サンダーボール作戦』のあらすじ冒頭部分です。
世界的人気を博している「ジェームズ・ボンド」シリーズの第4作で、今から57年前の作品。
主人公の初代ボンド役をショーン・コネリーが演じています。


このシリーズは現在も続いていて、
1962年の初回作から回を重ねること25回、
昨年10月公開の最新作でのボンドは6代目(ダニエル・クレイグ)となっています。

つい最近、
このシリーズの初回作から第8作までを配信動画サービスで「イッキ見」しました。
シリーズ初期の作品群はというと、
英国秘密情報部員である主人公ジェームズ・ボンドと、
世界征服を企むかのごとく暗躍する悪の巨大組織が対峙するストーリーが大半を占めます。
最終的にはボンドがなんとか危機をしのぎ、
彼に協力するボンドガールと共にハッピーエンドとなるパターンが多いのですが、
ここに登場する「悪の巨大組織」のやることが毎回相当にエグい。

冒頭のようにNATO軍の爆撃機を奪ったり、
時にソ連(当時)の在トルコ女性職員をおとりに使って英国とソ連の関係を悪化させたり、
さらには原子力潜水艦を乗っ取って世界核戦争を勃発させようとするのです。

第6作の『007は二度死ぬ』(1967年公開)では日本を舞台に、
運航中の米国とソ連の宇宙船をそれぞれ軌道から外し、
互いに相手国の仕業と疑わせ、
米ソ間が一触即発となる展開。

ちなみに、
この作品のボンドガールは浜美枝と若林映子の二人、
日本の情報機関のボスとして丹波哲郎が、
さらに第50代横綱佐田の山が本人役で出演しています。
ロケは日本各地の観光名所で行われ、
東京タワーや丸ノ内線、ホテルニューオータニなど馴染みのある風景も。


話はそれましたが、
ヨーロッパの国々や大国間における争いと国際危機の歴史は、
半世紀以上前のボンド映画においても格好の題材にされています。
奇想天外・荒唐無稽なシーンも多々あるにせよ、
現在のロシアによるウクライナ侵攻を目の当たりにすると、
決してひと昔前のシナリオでは済まされない、
なにか予言めいたものがそこに潜んでいるように思えるのです。

『サンダーボール作戦』が英国で公開されたのと同じ年、
米国ではバリー・マクガイアの歌うプロテスト・ソング『明日なき世界』が全米ヒットチャート1位を記録しています。

私などは実際のところリアルタイムで聴いた世代ではないのですが、
のちにこの歌を日本語に訳してカヴァーしヒットさせたのがRCサクセション。
1988年のことです。
これはジャストタイム。

東の空が燃えてるぜ
大砲の弾が破裂してるぜ
おまえは殺しのできる歳
でも選挙権もまだ持たされちゃいねえ
鉄砲かついで得意になって
これじゃ世界中が死人の山さ
でもよ何度でも何度でもオイラに言ってくれよ
世界が破滅するなんて嘘だろう
感じねえかよ このいやな感じを
一度くらいはテレビで見ただろう
ボタンが押されりゃ それで終りさ
逃げ出す暇もありゃしねえ

いま歌われてもなんの違和感もないばかりか、
当時聴いていた頃より現実感が増しているという恐ろしさ。

はたして現在のウクライナ情勢は「事実は小説より奇なり」なのか、
それとも歴史をひもとけば驚くに値しないことなのか。

半世紀以上昔の映画や歌が今を生きる人たちにリアルに響くようになったとしたら、
それは半世紀以上昔より圧倒的に複雑怪奇な時代を暮らすことになるのでしょう。