『1984』(「三建だより」コラム) 2009-08-01
五月晴れのある日、有楽町の書店に立ち寄ると何やら新刊コーナーに賑わいが。
きょうが先行発売日とのこと。
続々と購入していく人たちの様子を見て、
まるで導かれるように手にとりレジに並んでしまったのでした。
村上春樹によるこの小説は空前の売行きをみせ、
その話題には事欠きません。
小説の感想は熱心なファンにお譲りするとして、
ところで「1984年」っていえば?
そうでした、私は当時高校三年生でありました。
それはおそらく青春のド真ん中。
田舎の高校で、坊主頭で仲間たちと甲子園を目指し野球に明け暮れていた日々。
あっさり夢に終わった夏の甲子園は桑田・清原のPL学園が話題を独占、
で、ロス五輪ではカール・ルイスが大活躍。
MTVではマイケル・ジャクソンがムーン・ウォーク、
清志郎は派手な化粧で客をあおり、
そして学園祭では誰かがが彼らの真似していたような。
一方、僕らの話題をよそに、
日経平均株価は初めて1万円の大台を突破、
アップル・コンピュータはマッキントッシュを発表し、
スペースシャトル「ディスカバリー」が初の打ち上げに成功。
のちの世界に多大な影響を及ぼすことになった、
「あけぼの」としての出来事が多くあった年。
バブル景気の足音が聞こえるなか、
親に扶養されている身ではあったけれど、
未来はそこそこ明るく見えたのでした。
あれから25年、よって四半世紀。
KKコンビもカール・ルイスも勝負の世界から引退し、
マイケルと清志郎は奇しくも今年、
惜しまれながらこの世を去ってしまいました。
他方、
コンピュータ・ネットワークはもはや仕事や生活に欠かせない必需品となり、
スペースシャトルは国際宇宙ステーションへと日本人飛行士を運びます。
ヒトは老い死に、テクノロジーは進歩する。
ところで、
村上氏が作品のモチーフにしたといわれているのが、
ジョージ・オーウェルの『1984』という近未来小説。
高校生当時にわけもわからず読んでいて、
その時の文庫本が今でも手元にあるのです。
あらためて読み返してみたけれど、
そこには、
洗脳・監視・尋問・拷問・思想警察・スパイ団・歴史改竄・永久戦争...。
といったものものしい言葉とともに、
全体主義社会への痛烈な批判が描かれていたのでした。
60年も前の小説ですが、
いまでも似たような統治社会は形を変えて世界の国々に芽を潜めているし、
私たちが暮らしている資本主義社会がじつはコンピュータに支配された管理社会だった、
という風刺にも受け取れます。
オーウェルの「近未来」小説と村上春樹の「近過去」小説。
それぞれリアルタイムで読めた幸運。
ヒトは老い死に、テクノロジーは進歩する。
けれど、
人間社会の本質や課題はそうやすやすとは変わらんぞ、
なーんて思ったのです。