株式会社東豆

『優美なフランス、タフな日本』(「三建だより」コラム) 2024-10-01

この夏の一大イベントであった「パリ2024」オリンピック大会。

開会式ではその演出内容がいくぶん炎上気味に話題となりましたが、
個人的には様々なパフォーマンスよりもむしろ、淡々と映し出されたパリの風景が印象的でした。
大聖堂や美術館の建築美はもちろんのこと、
凱旋門を中心に放射状に伸びていく、シャンゼリゼをはじめとした何本もの大通り。
その整然とした構図には、この国の持つ「秩序」さえ感じました。

選手団がセーヌ川を下っていく華やかで洒落た入場パレード。
そこで目を引いたのは、意匠をこらした多くの歴史的な橋。
「フランスでは、橋が破壊されるような大洪水はめったにおこらないのだろうな」
などと思ったのです。

さて、「国土」という視点で比べると、前開催国の日本とどれほどの違いがあるのでしょうか。

いくつもの川が流れ合わさって、最後に一本の川となり海に注ぐ「水系」。
日本には一級水系だけで109もありますが、
フランスは日本より大きな国土面積(約1.5倍)にもかかわらず、わずか6本の水系のみ。
さらに、日本は列島の真ん中を背骨のように貫いている山脈から発する川が多く、きわめて短く急流です。
大平原の広がる国土で長く悠々と流れるのがフランスの川なら、日本の川はいわば「滝」のようなもの。

降水量が多いのも日本。
近年30年間の平均降水量は1,668mm/年とフランスの倍近くの雨が降る。
さらに日本では近年、1時間に50ミリ以上の大雨(傘が役に立たなくなるような非常に強い雨)が増えていて、
約40年前と比べなんと4割増だそう。

川が短く流れは急で、そこに豪雨がしばしば襲うから水位上昇も急激。
日本で洪水が起こりやすいのは明らかなのでした。


 

上の写真はフランスの高速道路と日本の阪神高速道路の「橋脚」を比べたものです。
フランスよりはるかに太くどっしりとしている日本の橋脚。
賢明な建設人の皆様であれば
「さすがフランス、なんとスレンダーなデザインであることよ」
などとは決して思いません。

フランスでは有史以来、国土のほとんどで大地震が起こったことはなく、
加えて、氷河期以前にできた堅固な地盤を持っています。

一方でわたしたちの国はといえば、
国土に4つものプレートがひしめき合い、
推定約2000もの活断層が存在し、
全世界で起こったマグニチュード6以上の地震の18%がここで起きている。

いうまでもなく、橋脚の太さは地震力などを考慮するかどうかによって決まるので、
地震がある国とない国、地盤が軟弱な国と強固な国では、かかる費用も労力もフォルムもまったく異なるわけです。

おりしもパリオリンピックが佳境を迎えた8月8日、
日向灘でマグニチュード7.1の地震が発生、初の「南海トラフ地震臨時情報・巨大地震注意」が発表されました。

追い打ちをかけるかのように、8月下旬に発生したのは超ノロノロ台風10号。
弓なりの列島に沿うかのように居座った結果、
熱海市網代では観測史上最大の24時間降水量を記録、
三建管内でも多くの土砂災害をひき起こすという結果に。

嘆いても仕方ないことですが、
自然条件でいえば私たちはとんでもないハンディキャップを負った国に住んでいるという実感。
安全で強靭な国土づくりに関しては、スポーツ界のように世界基準に追いつけ追い越せではなく、
世界基準をはるかに超えて、先人が過去から積み上げてきた日本特有の災害対策を継承しつつ、
新たな種の災害にもスピード感をもって向き合わねばなりません。

常にタフでなければならない日本。

この夏のパリオリンピックと地震と台風、加えて酷暑。
浅学な身としてたいへん勉強になった夏でもあったのでした。


(図・写真:一般財団法人国土技術研究センター)