1984

五月晴れだった日、有楽町の書店に立ち寄ると何やら新刊コーナーに賑わいが。 近寄ればそこには『1Q84』と題した上下巻が山積みにされていて、きょうが先行発売日とのこと。 続々と購入していく人たちの様子を見て、まるで導かれるように手にとりレジに並んでしまった。

村上春樹によるこの小説は空前の売行きをみせ、その話題には事欠かず。 小説の感想は熱心なファンにお譲りするとして、ところで「1984年」っていえば? 私はといえば当時高校三年生。 それは青春のド真ん中。 田舎の高校グラウンド、坊主頭で球友と甲子園を目指し野球に明け暮れていた日々。 あっさり夢に終わった夏の甲子園は、桑田・清原のPL学園が話題を独占していたっけ。 ロス五輪ではカール・ルイスが大活躍、MTVではマイケル・ジャクソンがムーン・ウォーク、 清志郎は派手な化粧で客をあおり、そして文化祭では誰かがが彼らの真似をしていたかも。

ベタな僕らの話題をよそに、日経平均株価は初めて1万円の大台を突破、アップル・コンピュータはマッキントッシュを発表し、スペースシャトル「ディスカバリー」が初の打ち上げに成功。 のちの世界に多大な影響を及ぼすことになった、「あけぼの」としての出来事が多くあった年。

バブル景気の足音が聞こえるなか、親に扶養されている身ではあったけれど、未来はそこそこ明るく見えた。

あれから25年、よって四半世紀。 KKコンビもカール・ルイスも勝負の世界から引退し、マイケルと清志郎は奇しくも今年、惜しまれながらこの世を去ってしまった。 他方、コンピュータ・ネットワークはもはや仕事や生活に欠かせない必需品となり、スペースシャトルは国際宇宙ステーションへと飛行士を運ぶ。

ヒトは老い死に、テクノロジーは進歩する。

村上春樹が作品のモチーフにしたといわれているのが、ジョージ・オーウェルの『1984』という近未来小説。 ベタな私も高校生当時にわけもわからず読んだ(記憶がある)。 その時の文庫本をあらためて読み返してみた。 そこには、洗脳・監視・尋問・拷問・思想警察・スパイ団・歴史改竄・永久戦争...。といったものものしい言葉とともに、全体主義社会への痛烈な批判が描かれていた。

小説発表からちょうど60年。統治社会は形を変えて世界の国々に芽を潜めているし、私たちが暮らしている資本主義社会がじつはコンピュータに支配された管理社会だった、という風刺はますます現実に。

オーウェルの「近未来」小説と村上春樹の「近過去」小説。 ユートピアはいずこに。