建設業と符牒

「『封筒にハサミいれてくれるかな』と渡したら、なんとハサミの入った封筒が戻ってきた」「『この書類、あとで焼いておいて』とお願いしたら、『シュレッダーじゃだめですか』と言われてしまって」

この会話、知り合い(立派な企業の幹部でございます)から直接聞いた、上司と若き社員とのやりとり。 「ずいぶん盛ってるんじゃないの?」聞き返せばホントの話とのこと。

でもよくよく考えると若き彼らの対応もごもっともかも。 封を切るのに今じゃハサミは主流じゃない。 「焼いて」と言われたって青焼き全盛の頃にはまだこの世に生を受けてすらいない。 正確には『封を開けて』『コピーして』と言うべきかと。 いつの時代も「いまの若者は言葉づかいがなってない」といわれがちだけれど、ご時世にあわぬ表現で会話をしている上司こそ“なってない”わけだ。

同じように、建設業界独特の用語もまた彼らを悩ませるだろう。 それは一般に符牒(ふちょう)とか隠語と呼ばれる言葉づかい。 寿司職人が使うシャリ、ギョク、ムラサキ、アガリといったたぐいのアレ。 もともとはお客様に気づかれぬよう、同業者内や仲間内でのみ通用することばで、寿司屋でも客が使うのは本当のところ好ましくないそうだ。

この符牒、多業種が入り混じる建設業では土木用語あり大工用語ありと多種多様。 あばた、じゃんか、ウエスにレーキ、バタ角、あさがお、うめ殺し(!)・・・。 もともとの由来をご存知の方は意外と少ないことだろう(割愛するが、調べてみるとこれがなかなか面白い)。

しかし、「符牒に上品なものなし」と言われるだけあって、今となっては放送禁止となった用語も散見する。

今後の建設業において、この「符牒」がますますナイーヴな問題をはらんでいく。 いうまでもなく「女性がより活躍できる社会」「若者の従事を促進する」という国を挙げての取り組みのなかで。 なんの疑問もなく使っていた隠語が、下手をすると差別・セクハラ・パワハラ問題へと展開する危険をはらんでいる。

もともとは現場で的確かつ素早くものごとを伝えるための手段として使われていたはずの符牒。 年度がわりのこの季節、若き彼らとは用語の由来をネタに交流しつつ、時には適切なことばづかいに変えてみることも必要だ。

現場の若い衆にウマやネコを頼んだら、ほんものを連れてきたなんてことにならぬよう。

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